2011年07月01日

謎の巨大イカ, ダイオウホオズキイカ, Colossal Squid


2007年2月に南極海の巨大イカがニュースになりました。

「ダイオウイカ」は巨大生物として多くの人が知るところですが、これは「ダイオウホオズキイカ」という聞きなれない名前でした。

漢字で書くと、大王鬼灯烏賊(大王酸漿烏賊)です。

大王(大きな王様) + 鬼灯(ホオズキのような) + 烏賊(イカ) の合成語ですね。

名前のとおり、ホオズキのように赤く膨らんだ姿が印象的です。

参考にホオズキの画像を貼っておきます。
本当に良く似ています。( ゚д゚ )

(画像はWikipedia「ホオズキ」より)

ダイオウホオズキイカは南極海の周辺水深2,000mの深海域に棲息していますが、まだ10体程度しか捕獲されたことがなく、自然な状態での生体も観察されたことがないので詳しいことはわかっていません。

英文wikiに本種発見の時系列がまとめられていました。これをもとにニュースなどを加筆してみました。

1925年 本種が初めて発見されました。マッコウクジラの胃の中に2つの触手が発見されたことによります。

1981年 ロシアのトロール船Evricaが南極ロス海の沖、水深760mで全長4m(13ft)の巨大イカを捕獲しました。後に、それは本種の未成熟の雌として同定されました。wikiはこちら。写っている男性2名がいかにもロシア人風ですね。このままコサックダンスを踊りそうですw


2003年 本種の完全な標本が海面近くで採取されました。未成熟のメスで全長6m(20ft)。BBCのニュース記事はこちら。


2005年 サウスジョージア島付近のメロ漁の延縄、水深1625mメートルの深さで捕獲されました。胴体(外套膜:mantle)の部分は引き上げることができませんでしたが、触手は2.3mの長さでした。推定では体長(外套長)2.5m以上(全長5m以上)、重さ150kg〜200kgの個体であったと考えられています。メロとは日本で「銀ムツ」として販売されていた「マジェランアイナメ」のことです。 2003年のJAS法改正により「銀ムツ」の表記はできなくなり、「メロ(銀ムツ)」または「メロ」となりました。この時に名前が変わった魚で有名なものは「カペリン:樺太シシャモ」などがあります。

左の写真を見ると判りますが、船の横までは完全な姿で上がってきたものの、最後、船に引き上げるときに頭と外套膜の部分が千切れてしまったようです。船上に引き上げられたのは足だけでした(右側の写真)。当時の報道はこちら

2007年2月22日 この記事トップの写真の個体が捕獲されました。捕獲時の動画はこちら。まだ生きて触手を動かしています。今回も南極海のメロ漁の「外道」です。針にかかった30kgほどのメロ(下の写真)に食いついていました。


最初、ギャフで逃げないように押さえていましたが、体が柔らかくてちぎれそうなため網で引き上げました。現在知られている本種の個体で最大のものです。全長10m(33ft)、重さ450kg(992lb)。後の計測では495kgとなっています。この個体は冷凍保存されて、ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワに移送されました。

2008年5月 冷凍保存してあった個体を解凍し、解剖しました。このために博物館の建物を増築し、専用のプールを作りそこで解凍、解剖を行っています。この解剖の記録は写真が50GB、動画が150GBにもなりました。出版社などで高画質の画像が必要な場合には博物館に連絡をください、と博物館のブログに書かれています。

この時に、2007年2月に捕獲されたダイオウホオズキイカの他、小型のダイオウホオズキイカ、ダイオウイカも併せて解剖しています。ここで画像付きで見ることができます。

日本からは、国立科学博物館の窪寺恒己博士が参加しています。窪寺博士は2004年に、ダイオウイカの生体を世界で初めて撮影したことでも有名です。世界的なイベントに日本人科学者が参加していることを誇らしく思います。2011年6月現在は、国立科学博物館標本資料センター コレクションディレクター(兼)分子生物多様性研究資料センター長を務めています。


一番左が窪寺博士。


みんなで並んで記念写真。一番右が窪寺博士です。
解剖のために世界中から研究者が集まりました。

以下、左から右へ名前とプロフィールを記載します。
所属は2011年7月現在のもので、3年前とは若干異動があります。

スティーブ・オシェア博士(Steve O’Shea) オークランド工科大学准教授、地球&海洋科学研究所長
マーク・フェンウィック(Mark Fenwick) ニュージーランド国立水大気研究所(NIWA)海洋生態学技術者。解剖当時は博物館所属。
オラス・ブラーウ博士(Olaf Blaauw) 海洋生物学・毒物学者 オランダ国立応用科学研究機構所属。
キャット・ボルスタッド博士(Kat Bolstad) オークランド工科大学 地球&海洋科学研究所 研究員、学部講師。
窪寺恒巳博士(Tsunemi Kubodera) 国立科学博物館館標本資料センター コレクションディレクター(兼)分子生物多様性研究資料センター長。2008年当時は動物研究部・海生無脊椎動物研究グループのグループ長でした。


解凍したてのイカを生でパクリ。…((((´〜`)モグモグ
深海イカの例に漏れずアンモニア臭がしたそうです。
窪寺博士は右から2人目です。

2008年12月13日 ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワで展示開始。2008年のクリスマスに間に合うように準備を進めました。保存液が循環する特注の展示ケースを用意して展示をしています。しかし、巨大なケースだけに保存液に気泡が生じたりして相当苦労した様子です。解凍・解剖・展示までの経緯を博物館のブログで見ることができます。


2007年2月の捕獲以来、画像が出回った有名なイカですが、解剖された後、博物館で展示されていること、解剖に日本人科学者が加わっていたことは、あまり知られていないようです。

ダイオウホオズキイカの生態等概要はWikiをご参照ください。

私が驚いたのは、重さ500kgに近いこのイカが卵巣の成熟度などから、いまだ成体ではなく大きな幼体の可能性があるということです。BBCの記事では、マッコウクジラ15m、ダイオウイカ18mより大きくなる可能性があり、大きさは???となっていました。

一部ニュースでこの個体がオスとなっているものもありますが、卵巣が発見されていることからメスであると思われます。テパパ博物館のブログにもメスだと書かれています。

また2010年に発表された論文によれば、体重500kgのダイオウホオズキイカは5kgのメロ(マジェランアイナメ)を1匹食べれば、200日間生き延びることができると推測されるそうです。

まだまだ、謎の多いダイオウホオズキイカ。

これからの研究が楽しみです。

#追記
このブログを始めて、記事を書くために色々なトピックを調べていますが、日本語ソースは量も種類も少ない。重要な情報、興味深い情報はほとんどが英文です。Wikipedeiaも英文の方が充実していることが多いですね。

例えば窪寺博士もWikiに項目があるのは英語ポルトガル語のみ。日本語がありません。( ゚д゚ )

【追記 2011年7月4日】
2011年7月4日(月)にディスカバリーチャンネルで「この解剖」を特集した「世界初!幻の巨大イカの正体」の再放送がありました。記事を書いたばかりだったので良く知っている科学者達が写っていて何かおかしな気分でした。

捕獲から解剖まで詳細なドキュメンタリーでした。

番組ではスティーブ・オシェア博士が、この解剖のリーダーであると説明していました。我らが窪寺博士は「ダイオウイカの世界的権威」として紹介されました。2004年のダイオウイカ生体の撮影が世界に与えた衝撃の大きさが良くわかります。

解剖後は標本にするので、実際調査をできるのはわずか1日。大型のイカを腐らないように氷温で解凍するのにとても苦労をしていました。この調査の様子はWEBカメラで全世界に中継されたそうです。

また標本にするために身体(外套膜)を切り開いての解剖は行いませんでした。唯一、目だけは切り開いて、大きさを測定し水晶体を摘出しました。

その後、すみやかに写真に写っているメンバーでホルマリンを注入し固定化、標本にする作業に移行しました。

番組は、展示用ケースにイカを移動したところで終了しました。これもイカの身体が崩れないように移動するのは大変な苦労でした。

たまたま記事を書いた直後に、再放送があったことは何かのシンクロニシティだったのでしょうか。

日本語サイトの番組紹介はこちら。残念ながら今月の再度の放送はありません。(´・ω・`)

ディスカバリーチャンネル視聴方法はこちら

【関連リンク】
ダイオウホウズキイカ - Wikipedia まずはここから。本当は英文の方が充実していますw
パパ博物館ブログ 「巨大イカ」検索結果 ダイオウホオズキイカ解剖から展示までの詳細な記録。
ダイオウホオズキイカ解剖風景(21枚)解剖風景の写真。記事はこちら。
体重450キロのダイオウホウズキイカを捕獲 - ニュージーランド2007年捕獲時のニュース。
世界最大のイカ、イメージと異なり実は「ブヨブヨの肥満体」 AFP通信の続報。
テパパ博物館 巨大イカ特設サイト 多数の写真から動画まで。
世界最大のイカを解剖する:画像ギャラリー 解剖時の写真を解説(日本語)。
ディスカバリーニュース 巨大イカ 写真14枚と解説。写真きれいです。
全国いか加工業協同組合 イカ図鑑 世界中のイカの図鑑。本種は200番、最後に載っています。
ダイオウホウズキイカの低消費生活 本種が少ない食料で、長期間生存できるという論文の紹介記事。

【おまけ】
窪寺恒己博士の最近の研究テーマ
2006年から2011年まで科学研究費補助金の基盤研究BAと採択されています。採択一覧はこちら

科学研究費補助金は、国の科学研究の補助でも規模が大きく重要なものです。特に補助金額の大きい「基盤研究」に採択されることは、一流の科学者であることのステータスにもなっています。(ゼミとか卒研、指導教授の先生を選ぶときの参考にしてみたら面白いかもw)

日本の先端技術を生かし、大型イカ類を中心として生体の自然な姿を撮影することを目的に、小笠原周辺の深海のハイビジョン映像を撮影・分析しています。また、大型イカをエサとするマッコウクジラの生態、大型イカとの共生の解明にも取り組んでいます。

2004年のダイオウイカ生体撮影の時のように、世界を驚かせる映像が撮影されるのでしょうか。

願わくばマッコウクジラが深海でダイオウイカを捕食する場面が、ハイビジョンで見られますように。
オネガイッ…(*゚。゚)m。★.::・'゜☆

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posted by 桜 真太郎 at 09:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | 巨大生物
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