2011年07月10日

ぬらりひょん 妖怪の総大将


現在週刊少年ジャンプにおいて連載中の漫画、「ぬらりひょんの孫」において、ついに主役にまでなった妖怪ぬらりひょん。

すごい出世です。

極々簡単に「妖怪の総大将」としてのイメージの変遷をまとめてみました。

もともと、詳しい解説がなく「ぬらりくらりとつかみどころがない妖怪」とされてきました。

近年のぬらりひょんのイメージは次のようなものです。
忙しい夕方時などに、どこからともなく家に入ってきて、お茶を飲んだりするなどして自分の家のように振舞い、人間が見ても『この人はこの家の主だ』と思ってしまうため、追い出すことができない。妖怪の総大将ともいわれる。(Wikipedeiaより)

ぬらりひょんを妖怪の総大将とした一番古い記述は1930年(昭和5年)に遡ります。民俗学者・藤沢衛彦が1930年(昭和5年)の著作「妖怪画談全集 日本篇 上(中央美術社)」でぬらりひょんを「怪物の親玉」と書いています。

「ゲゲゲの鬼太郎」の漫画原作および1960年代のアニメ第1期(白黒)では、強敵ではありますが、単発登場の妖怪であり、「妖怪の総大将」のイメージは持っていません。この時期、敵妖怪のボスは西洋妖怪の「バックベアード」でした。

1968年制作の実写映画「妖怪大戦争」では、妖怪のまとめ役は「油すまし」であり、「ぬらりひょん」はモブシーンで少し写った程度でした。妖怪が行列する百鬼夜行の場面でも先頭は「油すまし」でした。この作品の前作の「妖怪百物語」でも同様で油すましは百鬼夜行の先頭でポスターにも大きく描かれていますが、ぬらりひょんは行列の中にいるだけです。

この頃はまだ「妖怪の総大将」としてのイメージはないことがわかります。

1984年放送開始の鬼太郎アニメ第3期では「妖怪皇帝」を名乗りボス的役割で度々登場をします。鬼太郎の宿敵としてのぬらりひょんが確立したのはこのシリーズからです。東映アニメーションのキャラクター紹介でも「妖怪の総大将とも呼ばれる悪行妖怪たちを束ねるボス。自身に目立った特殊能力はないが、その頭脳で数々の悪事を働き鬼太郎を何度となく苦しめた。」となっています。

1990年から1996年に週刊少年サンデーで連載された、妖怪漫画「うしおととら」にはぬらりひょんは登場しませんでした。作品中に東日本、西日本の妖怪の長(おさ)が登場しますが、いずれもぬらりひょんではありませんでした。
      

東日本の妖怪の長(おさ)は山ン本(やまんもと)。遠野で東日本の妖(あやかし)をまとめる大妖怪で、正体は大天狗です。モデルは怪談「稲生物怪録」に登場する魔王「山ン本五郎左衛門(さんもとごろざえもん)」と思われます。

西日本の妖怪の長(おさ)は神野(しんの)。高千穂に本拠地「空屋敷」を構え、剛刃「流走(るばしり)」を振るい、西の妖(あやかし)をまとめます。モデルは怪談「稲生物怪録」に名前のみ登場する魔王「神野悪五郎(しんのあくごろう)」と思われます。

現在30代前後の男性に絶大な人気を誇る「うしおととら」。鬼太郎のテレビシリーズが無い時代に人気を博したのが面白い。日本人は各年代で切れ目なくコミック、アニメで妖怪に親しんでいることが良くわかります。

「うしおととら」は設定、絵、ストーリー共に良質の作品なので、読者はそれぞれ心に残る場面は色々あると思います。オカルトファンの妖怪マニアの観点から私が一番しびれたのは、中国の符咒師が符呪を使って西洋のバンパイアと戦う場面です。普通は戦うことがない妖怪ハンターとモンスターの組み合わせが素晴らしい。符呪でダメージを与えつつ、最後はきっちりルール通り、白木の杭(くい)を心臓に打ち込んで、止めを刺すところに作者の力量を感じました。

1996年〜1998年放送の鬼太郎アニメ第4期で、ぬらりひょんは「妖怪王ぬらりひょん」として登場します。中盤以降では、朱の盆とコンビを組み、妖怪王編を筆頭に何度も鬼太郎と戦いを繰り広げます。確実に妖怪の総大将としての地位を固めていきます。

実写映画「妖怪大戦争」は2005年にリメイクされます。1968年版では脇役だったぬらりひょんは主題歌を歌うロック歌手「忌野清志郎」が演じ、主要な日本妖怪として登場します。このときは日本妖怪のボスでも、悪役でもなく、他の日本妖怪とともに敵(陰陽師 加藤保憲)と戦う姿が描かれています。

鬼太郎アニメの最新作となる第5期(2007年〜2009年)では最初から「鬼太郎の宿敵」「日本妖怪の総大将」として登場します。

東映アニメーションのサイトでは「ぬらりひょん一家」として紹介されています。「ぬら孫」のイメージに近いものがあります。

同時期に制作されたウエンツ瑛士主演の「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」(2008年7月12日公開)においても、日本妖怪の総大将であり最強妖怪、鬼太郎の宿敵として描かれています。

実写映画化、アニメ化された週刊ヤングジャンプの人気コミック「GANTZ」大阪編(2007〜2008年に週刊ヤングジャンプに掲載)では、敵役として多数の日本妖怪が登場しますが、その総大将がぬらりひょんでした。



「GANTZ」は一度死んだ人間を「コピー」してよみがえらせ、黒いスーツと特殊な武器を与え、「星人」と呼ばれるモンスターと強制的に戦闘を行わせるストーリーになっています。

一度死んだ人間が、死んだことも、戦う意味も分からないまま、生き残るために強制的に戦闘を行わなければなりません。

2000年に連載が始まったGANTZは、2011年7月現在、累計31巻、1,700万部以上を売り上げた人気コミックとなっています。アニメ化に続き二宮和也、松山ケンイチ主演で実写映画も制作されているので目にした人も多いでしょう。
   

「GANTZ大阪編」の敵モンスターは日本妖怪。ボスは3体登場し、犬神68点、天狗71点、ぬらりひょん100点でした。「GANTZ」において、敵モンスターは得点が高いほど強敵という設定になっていますが、2011年7月現在、作品に登場した100点のモンスターはぬらりひょんだけです。

「GANTZ」既刊31巻の中で唯一の100点モンスターは最強でした。ぬらりひょんの姿から、少女、女性の姿、筋骨たくましい男性の姿に変化し、攻撃されて生首だけになっても死なないどころか、目から怪光線を発射し圧倒的な力で周囲を破壊して、妖怪を次々になぎ倒します。

元の姿に戻ったところを刀で切られると、切られた部分がそれぞれ小型のぬらりひょんとなります。それが、でろりと女性の身体が多数結合した姿に変化します。色情狂のGANTZメンバーが性的な攻撃を仕掛け、隙ができたところを攻撃され、血の池になるまで破壊されます。やっと倒したと思ったら、血の池から多数の角と突起のある凶悪な恐竜型モンスターとなり再生します。

それに対してGANTZチーム最強のキャラクター「岡八郎」が、最高の装備と武器で戦いを挑みます。岡八郎の攻撃で恐竜型モンスターは倒されますが、すぐに女体と恐竜型モンスターのキメラとなって甦ります。それを肉片が蒸発するまで攻撃されると、その血の雨の後ろで、元のぬらりひょんの姿になり何事もなかったように座っています。

その後、小型の女性の姿、体の一部を変形させた筋肉隆々のぬらりひょんの姿、皮膚がなく筋肉が見え、多数の突起を持つ鬼の姿へと、戦いの中で姿を変化させて行きます。

その間、GANTZメンバーは次々に倒れていき、ついに最強の「岡八郎」も倒されます。東京、大阪のGANTZチームは、ぬらり1体に甚大な被害を受けます。

正体不明で底知れない強さを持つ敵モンスターが「GANTZ」の魅力ですが、ここまで絶望的な強さと不死身性を備えたモンスターはぬらりひょんだけです。

どんな攻撃を加えてもダメージを与えることができないぬらりひょん。世界中のGANTZファンを絶望の底に叩き込んだ、恐るべき強さでした。

GANTZは世界中に多数のファンが存在しますので、日本妖怪のボスとしてのぬらりひょんと、その強さを世界中に知らしめた功績は大きいものがあります。
※wikipedia16ヶ国語あり。ゲゲゲの鬼太郎は9ヶ国語。

「ぬらりひょん=妖怪の総大将」のイメージは鬼太郎のアニメを通じて1980年代から徐々に定着してきましたが、そのイメージを決定づけたのは現在週刊少年ジャンプ連載中の「ぬらりひょんの孫」と「GANTZ大阪編」でしょう。もちろん鬼太郎アニメ第5期、および実写映画「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」も大きな役割を果たしています。

2007年から2008年に「鬼太郎アニメ第5期」「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」「GANTZ大阪編」「ぬらりひょんの孫」が立て続けに「妖怪の総大将としてのぬらりひょん」を取り上げたことにより、「ぬらりひょん=妖怪の総大将」のイメージが確立しました。

「ぬらりひょんの孫」は一般に認知が広まってきた「妖怪の総大将としてのぬらりひょん」と「任侠(ヤクザ世界)」を組み合わせ、さらに人間と妖怪の間に生まれたクオーターを主人公とすることで新しい世界観を創出しました。
      

妖力の源は人間を食べることではなく、人間に恐れ(畏れ)を与えることにより得られるという設定も秀逸です。これにより、妖怪は人間の敵ではなくなりました。また、日本全国の妖怪が地域ごとに「組組織(くみそしき)」を作り、主従兄弟の契りを結び、同盟を組み、抗争を繰り広げるという設定も様々な可能性があります。

「ぬらりひょんの孫」は2008年から週刊少年ジャンプに連載されていますが、2006年に赤丸ジャンプに読み切りが掲載されたのが初出です。

絵に力があり、妖怪は不気味に、主人公はカッコ良く、ヒロインは可愛らしく描かれています。

ペンではなく、筆で妖怪の不気味さを表現する技法も、巻数を重ねるにつれ完成度が高まっています。

初代ぬらりひょんが、平安時代に天才陰陽師と手を組み、これも日本最強妖怪の「九尾の狐」を倒す「初代過去編」は最高の出来でした。

1980年代から30年の時を経て、ぬらりひょんは日本妖怪の総大将になりました。

日本は新たな妖怪を次々に生み出すばかりでなく、創作に携わる複数の人々により妖怪のイメージも変化していきます。

これは日本人にとって妖怪は現在も生きていて、身近にいる存在であるという、何よりの証拠だと思います。

【参考リンク】
ぬらりひょん - Wikipedia ぬらりひょんの解説。画像2枚あり。
妖怪画談全集 - 国立国会図書館サーチ ここに所蔵されています。
ゲゲゲの鬼太郎 - Wikipedia 漫画版の解説。
ゲゲゲの鬼太郎 (アニメ) - Wikipedia アニメ版の解説。1-5期全話のタイトル等一覧があります。
ゲゲゲの鬼太郎:東映アニメーション 第5期(2007-2009年)アニメ公式サイト。
ゲゲゲの鬼太郎 アニメ第3期(1985-1988年)公式サイト。
ゲゲゲの鬼太郎 DVD-BOX オフィシャル・サイト アニメ1期から4期までのDVD作品の解説。
GANTZ - Wikipedia 人気コミック「GANTZ」の解説。
うしおととら - Wikipedia
うしおととらの登場キャラクター一覧 - Wikipedia

【関連記事】
百鬼夜行 ぬらりひょんの孫
妖怪図鑑・妖怪データベース

【関連書籍】



【関連DVD】

スポンサードリンク

posted by 桜 真太郎 at 14:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 妖怪・モンスター
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/95081060

この記事へのトラックバック