2011年07月19日

キリストの棺 : キリストの墓


※イスラエル、タルピオットでマンション工事の際に発見されたキリストの墓の入り口。

キリストの棺
HV制作/エルサレムにある二千年前の墓所で石灰石の棺が見つかり、科学分析の結果、この墓にはイエスと家族が葬られていたのではないかという。この番組は、ジェームズ・キャメロンの指揮の下、壮大なスケールで、この考古学史上最大の発見を独占的に明らかにする。文書、古代DNA、法医学、考古学の様々な視点から分析。特筆すべき発見は、イエスとマグダラのマリアの間にユダという名前の息子がいたらしいという新しい証拠である。
http://japan.discovery.com/episode/index.php?eid1=858821&eid2=000000

2011年7月13日放送のディスカバリー・チャンネルの番組を見ました。本国での放送は2007年3月4日、日本での初放送は2007年6月24日です。

エグゼクティブ・プロデューサーは、ジェームズ・キャメロン監督。ターミネーター、タイタニック、アバターとヒット作を立て続けに世に送り出している監督の壮大なスケールと、息をもつかせない構成で2時間があっというまでした。ディレクター(Directer)はドキュメンタリー映画で数々の賞を受賞しているユダヤ系監督、シムハ・ヤコブビッチ(Simcha Jacobovici)

番組の冒頭、番組で紹介する内容は専門家の間で意見が分かれていることが述べられます。この墓についてはイエスキリストとその一族のものなのか、それとも、この時代に多くある名前の他の家族のものなのか、どちらを選択するかは視聴者に委ねます、という形で番組は始まります。

1980年3月28日、東エルサレムの旧市街タルピオット(Talpiot)でマンション建設の工事中に、2000年前の墓の入り口が見つかりました。このような墓が作られたのは紀元30年から70年までの40年間に限られます。

※墓の入り口を調べるシムハ・ヤコブビッチ監督。AmazonのLost Tomb of Jesus(DVD)より。

日本と同じく、工事優先で墓を壊そうとする作業員に対し、近所の人がイスラエル遺物庁に連絡をし、翌日から数日間の短い調査が行われました。調査終了後は墓を埋め戻して工事を進めなければなりません。 墓の入り口の上には山型の下に○印の刻印がありました。

オカルトファンならすぐにピン!とくる、ピラミッド・アイの図案です。番組ではこの図案は初期キリスト教のシンボルであると説明していました。

エルサレムの黄金のドームを望む丘(オリーブの丘)に、フランシスコ会が建設した主の涙の教会があります。1953年、修道院の改修中に2,000年前の墓地が発見されました。その地下墓地の一部は発掘調査され、イエスの弟子たちのものと思われる骨棺が見つかっています。福音書に名前が出てくる使徒では12使徒のシモン(Simon bar Jonah)の骨棺もあり、初代キリスト教徒が埋葬された場所と考えられています。

※主の涙の教会からエルサレムの黄金ドームを望む美しい写真。


※主の涙の教会にある地下墓地。骨棺が見えます。

骨棺は一部しか残っておらず協会横の小さな博物館に収められています。シモンは新約聖書のペトロであり、初代ローマ教皇となりました。しかし、後に磔となりバチカンに埋葬されたとされていますが、実は考古学的証拠は発見されていません。

こちらの教会には考古学的な証拠となる骨棺が見つかっています。このことからこの墓もイエスの一族が葬られた一群の墓地群のひとつであると考えられます。タルピオットはベツレヘムとエルサレムの中間地点であり、両方の町に住む遺族が墓参りしやすいことも傍証になりそうです。

そして、主の涙の教会にある墓地の骨棺にも山形の下に○の図案が刻印されたものが見つかり、番組では十字架がキリスト教のシンボルとなる前の、初期ユダヤ・キリスト教のシンボルだったのではないか、という説を提示していました。

入り口にこの記号があるということは、キリスト教に関係の深い者の墓であることが推測される、ということです。

この記号は新約聖書に名前が出てくるイエスの弟子、キュレムのシモンの息子、アレクサンドロの骨棺にも見つかりました。これは番組の新発見として紹介されました。

キュレムのシモンはイエスが十字架を背負って、悲しみの道を歩いていたときに、イエスの十字架を支えて歩くのを助けた人物です。

その2人の骨箱は1941年に見つかり、ヘブライ大学に保管されています。その骨箱に山形に○の図案が見つかりました。

番組と同じスタッフの著書、キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌 でも図版付きで解説がされています。

墓の中には骨棺が10個と頭蓋骨が3個発見され、その中の6個の骨棺には名前が刻まれていました。骨棺のうち1個は正式な調査前に紛失してしまいました。

※墓を調査するシムハ・ヤコブビッチ監督。AmazonのLost Tomb of Jesus(DVD)より。


※発見された棺のひとつ、マグダラのマリアの棺。AmazonのLost Tomb of Jesus(DVD)より。

発掘した考古学者は何も特別なものはないと判断し、墓はコンクリートで固めて、マンション建設工事が進められました。9個の骨棺はイスラエル遺物庁(IAA)の本部である、ロックフェラー博物館の倉庫に保管され、遺骨はユダヤ教の聖職者によってイスラエル郊外の神聖な墓地に埋葬されました。

1970年代から80年代にかけてエルサレムでは1世紀の墓が相次いで発見されており、1,000を超える膨大な数の骨棺がIAAに持ち込まれていました。骨棺に見つかった名前の一つ一つは他の場所でも見つかっている当時ありふれたものだったので、この墓が特別なものだとは思われなかったということです。

骨棺に名前が書かれているのは全体の2割以下ですが、この墓では10個中6個に名前が書かれていました。

新約聖書に良く登場する名前が1か所で見つかった事実、聖書に関係のない名前の骨棺がひとつも発見されなかった事実は、検証の余地があります。

IAAの本部がロックフェラー博物館、墓の入り口にピラミッドアイがあることはオカルトファンにとっては興味深い事実です。

マンションは1982年に完成します。当初は墓の入り口は開いており、子供たちが中に入って遊ぶことができたので、マンションの自治会は安全のため、入り口をコンクリートで封鎖します。


最初、この発見は1994年に「イスラエル国におけるユダヤ納骨堂の収蔵物カタログ:catalogue of jewish ossuaries in the collections of the state of israel」の701番から709番として出版されました。そして1996年の3月から4月にかけて最初にイギリスで議論を呼びました。同年遅れて、イスラエル古代史の権威ある雑誌、「アチコット:Atiqot」29巻に記事が掲載されました。その後、2007年にこの番組が制作されました。

番組ではイスラエル遺物庁に保管されていた骨棺を調査します。骨棺に書かれていた名前は6つ。
()内の言語で名前が記されていました。

ヨセフの息子イエス:Yeshua bar Yehosef(アラム語)-- 英語では "Jesus, son of Joseph"
マリア:Maria(ラテン語の名前がヘブライ語で書かれていました。)-- 英語では"Mary"
ヨセ:Yose(ヘブライ語) -- 英語では"Jose" 。"Joseph"のニックネーム
イエスの息子ユダ:Yehuda bar Yeshua(アラム語)-- 英語では "Judah, son of Jesus"
師として知られたマリア:Mariamene e Mara(ギリシア語)-- 英語では"Mary, known as master"
マシュー:Matia(ヘブライ語)-- 英語では'Matthew' 使徒マタイ、母マリアの親戚?

※番組では6つでしたが、特設サイトにはもう一つ名前がありました。
ジェームス、ヨセフの息子、イエスの兄弟:Yaakov var Yosef a khui d' Yesha(アラム語)-- 英語では"James, son of Joseph, brother of Jesus"
10個発見された骨棺のうち、紛失した1個が事前に写真にとられていて、そこに書かれていた名前です。

書かれていた言語に統一性がないのは正式な記録やデザインではなく、墓に入った親族が骨棺を識別するためのメモ書きであるからという説明でした。骨棺の場所を移動した場合などに識別ができれば良いということです。

これらの6人を詳細な家系図を画面で見せながら、家族関係を解説します。

この図版はディスカバリー特設サイトのハードコピーです。サイトでは家族の名前をクリックすると、骨棺に掘られた名前、説明が表示されます。

以上は番組内での解釈であり、特にマグダラのマリア、マタイについては放送後様々な議論がなされています。

番組ではマリアンネの正体について論理的な展開で追跡しています。キャメロン監督の演出と思わせるスリリングな知的推理でした。

キリスト教が公認され、力をもった5世紀以降、教義に対して都合の悪い内容を持った福音書のテキストは破棄されました。(焚書の場面が映る)

それは、マグダラのマリアの福音書と、兄フィリコの福音書(フィリコ行伝)です。

2つの福音書には初期キリスト教で女性の使徒が力を持ち、男性と同じように活躍していたという事実が書かれています。それを隠蔽しようとして、2つの福音書は消され、文献に引用された名前が残るのみとなりました。男性中心の5世紀以降のキリスト教にとって女性が使徒として活躍したことは都合が悪いと思われたのです。

ところが、1974年ギリシャのアトス山にあるクセノフォントス修道院(Xenophontos Monastery)で700年前、14世紀のフィリコ行伝の写本が発見されます。これは過去に発見されたどの写本より完全なものでした。

この発見をした、ハーバード大学神学校のフランソワ・ボヴォン(Francois Bovon)教授にインタビューを行います。

教授はこのもっとも完全なフィリコ行伝にはマリアンネ(MARIAMNE)の記述があり、マリアンネはマグダラのマリアと同一人物で男性と区別がされない完全な使徒であったと考えられると説明をしました。

また、マグダラのマリアはフランスで亡くなったとされていますが、フィリコ行伝にはマリアムネは死ぬ前に、故郷のエルサレムに帰るためにフランスからヨルダン渓谷に向けて出発したという記述があるということです。

ですから、夫であるイエスと同じ墓に遺骨が納められていても不思議はありません。

素晴らしい展開で胸が躍りました。

しかし、番組放送後にフランソワ・ボヴォン教授は、次のような反論を発表します。Googleで"francois bovon"を検索すると上から3番目に出てきます。

インタビューの際は番組の意図を知らなかった。イエスがマグダラのマリアと結婚して子を設けるなど、サイエンス・フィクションの世界だ。MARIAMNEはマグダラのマリアではない、といったことを5つの論点について強烈に反論しています。

キリスト教の教義に真っ向から立ち向かうような番組内容なので、神学校の研究者としては当然のことでしょう。この番組は発表当時から物議を醸していて、現在でも様々な議論がなされています。ディスカバリーの特設サイトや、Wikipdeiaの本文、議論でも反論が多く書き込まれています。

この発見が事実であればキリスト教の要である「キリストの復活」が否定され、さらに、キリストの妻はマグダラのマリア(Mary Magdalene)で「ユダ(Judah)」という名の息子がいたとなればキリスト教は大混乱です。

番組では骨棺から遺物を採取し、DNA鑑定も行います。カナダ、オンタリオにあるレイクヘッド大学(Lakehead University)のパレオDNA研究所(Paleo-DNA Laboratory)で、古代のDNAを研究するカーニー・マジスン(Carney Matheson)博士に鑑定を依頼します。

※試料の採取に立ち会う、シムハ・ヤコブビッチ監督。AmazonのLost Tomb of Jesus(DVD)より。

試料の保存状態が悪く、通常の分析、核DNA分析はどちらもできませんでした。しかし、ミトコンドリアDNAは抽出に成功し、鑑定を行うことができました。その結果によると、「イエス」と「マグダラのマリア」には、母型のDNAの共通性が見られなかった。その2人が同じ墓に埋葬されているのは、夫婦と考えるのが自然だろうと結論付けていました。

※ミトコンドリアDNAは母系の血縁関係しか調べられない。

一つの墓に6つの名前が現れる確率も番組は検証します。

当時使用されていた名前の出現頻度を掛け合わせていきます。

ヨセフの息子イエス 1/190
マリアンネ 1/160
マタイ 1/40
ヨセ 1/20
マリア 1/4

合計= 1/97,280,000

このうち不確実なマタイを除外すると 1/2,400,000

資料の偏差を排除するために分母を4で割ると600,000

エルサレムで見つかった1世紀の墓の総数が1,000

600,000 ÷ 1,000 = 600

1つの墓にこの組み合わせが現れる確率 1/600 = 1.67%

知的好奇心を刺激されっぱなしで、あっという間の2時間でした。

HD制作なので番組の再現ドラマの映像も美しい。各使徒による福音書が、妻マグダラのマリアや息子ユダとの関係や名前を伏せた理由は、ローマ支配下のイスラエルでイエスの家族を守るためであったといった視点も良かったと思います。

宗教に寛容な日本人の多くは何事もなく興味深く楽しめるでしょうが、キリスト教への深い信仰がある欧米では制作発表の時点から波紋を呼び、現在も議論が続けられています。

【関連書籍】
キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌 番組制作スタッフによる書籍。おすすめ。
Lost Tomb of Jesus(DVD) 「キリストの棺」のDVD(英語)。800円余りで購入できますが、リージョン1なのでリージョンフリーのプレイヤーが無いと再生できません。

 

【関連リンク】
「キリストに妻子」、ジェームズ・キャメロンのドキュメンタリーが波紋 AFPBB News 制作発表のニュース(日本語)。この時から波紋を呼んでいます。
キリストの棺と捏造された聖書 書籍「キリストの棺」の概要。日本語。上手にまとめています。
Talpiot Tomb - Wikipedia この墓所の解説。例によって日本語はありません。
The Lost Tomb of Jesus - Wikipedia この番組のWiki。
The Lost Tomb of Jesus Discovery Channel ディスカバリー特設サイト。詳細な資料から掲示板まで。メニューの「Explore the Tomb」「ENTER THE TOMB」と進みキリストの系図と墓の見取り図が表示されたら、下部中央「DOWNLOAD DOCUMENT」から番組の根拠となった資料、写真、図版などが掲載された13ページのPDFがダウンロードできます。

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posted by 桜 真太郎 at 16:34 | Comment(1) | TrackBack(0) | 古代文明